釈迦涅槃像図(しゃかねはんず)


十王図とともに保管してある涅槃図です。平成23年に大がかりな修復を終え無事に帰ってきました。部分的な色彩の破損も修復され、150年前に表装されたときと同じくらいの輝きが取り戻せたのではないでしょうか。昔は、各地のお堂まで出向き、涅槃図の絵解き説法が行われていたそうです。

 

*江戸中期くらいの作風。各地に数多くの涅槃図が現存するが、佐賀県伊万里市の寺院に類似の作風が認められることから、平戸松浦藩ゆかりの作者であるかも知れない。図画原寸は、220×160。

 

 

 

〇涅槃図・よもやま話


 この娑羅樹にかかっている赤い布袋は、お釈迦樣のお袈裟と托鉢の時の必需品である鉢を包んだものです。でも、後世さまざまな絵解き説法が展開していくにつれて、袋の中身が変化していきます。

それが、「涅槃図に猫が描かれていない理由」につながっていきます。

 

この袋の中身は「起死回生のためのお薬」であるというお話。

お釈迦樣のおかあさん摩耶夫人は、釈迦を産んで七日目に亡くなられ、天に住まわれていました。

釈迦が亡くなられた報告を受けた摩耶夫人は、布袋に起死回生の霊薬を入れて天から降りてきます。

しかし、たくさんの鳥たちがその行くてを邪魔して降り立つことができません。

困った摩耶夫人は、錫杖に薬袋を結わいて投げ落としました。

でも、その袋は娑羅樹にひっかかり、お釈迦樣まで届きません。

そこでネズミは、木にひっかかった薬袋を取りに行こうとしますが。

猫がそれを邪魔したために、結局釈迦は薬を飲むことができずに亡くなられました。

これが、涅槃図に猫が描かれない理由だということです。

 

で、もう一つの物語が、「十二支の順番」が決定したお話です。

釈迦が亡くなられそうだと最初に知ったのが牛。

牛はネズミを頭にのせて駆けつけます。

途中で昼寝をしている猫に会いますが、日頃から快く思っていないネズミは、お釈迦様の危篤を教えませんでした。釈迦の元に到着したネズミは、牛の頭から勢いよく飛び降りて一番に到着しました。

で、ネズミ、牛、寅、ウサギ、竜、ヘビ・・・という順番が決定したとか。結局、猫は釈迦入滅に姿を現すことができなかった、というお話し。

 

おそらく、こんなお話が展開したのは江戸時代だと思われますが、薬袋の到着を邪魔する鳥たち、それを必死にどうにかしようともがくネズミ、そのネズミの行為をさえぎる猫。

このそれぞれの描写に、諸行無常、会者定離、愛別離苦の現実を現実として受け入れるための、
大切な導きが表現されているのかもしれません。