3、潮音院の今昔

 潮音院は、真言宗智山派に属するお寺です。総本山は京都の智積院(ちしゃくいん)で、大本山には千葉の成田山新勝寺、神奈川の川崎大師平間寺、東京の高尾山薬王院の三つのお寺があります。潮音院と同じグループに属するお寺は、全国に三千ヶ寺を数え、高野山派につぐ巨大宗団です。

 平戸島と九十九島の風光を眼下に見下ろす聖地潮音院は、その名も遠海山蓮華寺潮音院。『観音経』に由来するその名の示すとおり、潮音院の御本尊は聖観世音菩薩さまです。この金色に輝く観音さまの右脇にまつられてあるのが、宗祖弘法大師空海像です。そして左脇が中興の祖興教大師覚鑁(かくばん)像です。

これらのお仏体は内陣にまつられてあります。内陣の右脇壇にまつられてあるのが大聖不動明王さま。

そして左脇壇には、真言宗の大本尊であるこの宇宙の象徴大日如来。さらに某所には秘仏薬師如来と弥勒菩薩。以上七体の仏菩薩の像が潮音院のご本堂内に安置されてあります。特に秘仏である薬師如来の像は、平安末期か鎌倉初期に製作されたもので、不動明王像も鎌倉時代の製作であることから、文化財としてもたいへん貴重なお仏体さまです。

 境内は、四方を竹林と森林に囲まれ、山寺の風情を今に伝えておりますが、特にこの風情を感じさせるのは、本堂正面に至る全長200数十メートルの表参道であります。参道入り口を数十メートル程上がった左手に立つ塔は三界万霊塔。この塔には、正徳5年2月16日と刻まれてあり最も古い供養塔であります。西暦では1715年。徳川吉宗の政権が始まらんとする頃です。この供養塔のすぐ近くには、鎌倉から室町の時代に作られたと推察される六地蔵が建っています。時代は不詳ですが、参道入口には大きな板石状の率塔婆が建っています。表参道なかごろから右手にずらりと見えるのが、西国三十三ヶ所霊場の各御本尊さまと、十三仏さんとして信仰のあつい十三の仏さまです。百メートルにわたって立ち並ぶ四十六体の石仏は、霊験あらたかな古刹潮音院を代表する最たるものです。

 潮音御の伽藍は、本尊を中心に位牌堂、鐘楼堂(しょうろうどう)、奥書院、客殿、食堂(じきどう)、僧房が主なものですが、特に
鐘楼堂のつり鐘は、正徳4年(1714)に造られたもので、西九州では最も古いつり鐘の中のひとつであります。潮音院の奥の院は位牌堂裏手の山中に位置し、お堂はなく石仏のお大師さまがまつられて

います。

 このお寺は、平戸藩の著名な古刹で、藩主の信仰が厚く、歴代の藩主はたびたび参拝されていたそうです。そのような由緒ある潮音院の開基をはじめ、その後の歴史的展開には、さまざまな忠実やおはなしが伝えられています。現存する史料や語り伝えをもとに、潮音院の歴史を少しのぞいてみたいと思います。