宇宙の真理  ―六大縁起(ろくだいえんぎ)―

 仏教とは仏になるための教え、言い換えれば本当の人間の道を私たちに教えるものであり、大きな意味では宇宙全体の真理を物語るものであります。宇宙の真理は私たちの人間生活と無関係で無く、むしろその真理によって私たちの存在がありえるのであって、それを無視しては仏教は成り立たないのです。

 世界の成り立ちを縁起(えんぎ)と言いますが、世の中のすべての現象(げんしょう)は目に見えないけれども大いなる命がこの世に生き続け、その生命の力が種々の形を持ち、個々の生命をもって現れているとの世界観に立つのが仏教であります。

 弘法大使さまが開かれた真言密教の根本になる思想は六大縁起(ろくだいえんぎ)と言われていますが、これは、この世の真実と成り立ちを教えている世界観であり、人生観なのです。

 六大縁起とは、人間を始めすべてのものは地(ち)、水(すい)、火(か)、風(ふう)、空(くう)、識(しき)の六つの性格と活動を持つことによって、この世に生まれ出ているということです。これは単に物質的な要素の集合によるということではなく、地水火風空識、それぞれの持つ大いなる命の活動という意味で「六大」と表現されているのです。

 地のいのち、水のいのち、火のいのち、風のいのち、空のいのち、心のいのち、と置き換えますとわかりやすいでしょう。

 地とは、大地の持つ生命により、これを土台としてすべてのものは育つということを意味します。水は、すべてのものにうるおいを与え、生命力を施し続ける命の水ということです。火は、火の持つエネルギー、すなわち生物に熱量と活力を与える命の働きです。風とは、宇宙全体の呼吸とでも申しましょうか、一息一息の呼吸は生命そのものであります。空とは、すべてのものを覆い包んでいる宇宙の広大無辺なる永遠の生命であります。識は、すべてのものにある心の命、智恵の働きのことです。

 以上のように、私たち人間の肉眼では見ることができないけれども、宇宙にはすべてのものに命と心が脈々と生きています。これらを強調して説くのが真言宗であります。真言密教といわれるゆえんもこ

こにあります。